獣医学部はなぜ少ないの?新設できない理由とは!

獣医学部なぜ少ない

日本国内には獣医学部(あるいは獣医師養成課程を持った学部は少ないです。

本記事執筆時点では、国公立と私立を合わせて17大学となっています。

それらを卒業して獣医師国家試験に合格するのは毎年1000人ほどでして、これは医師国家試験や薬剤師国家試験の合格者(それぞれ約5000人と10000人弱)とは比較にならないほど少ないことがわかります。

獣医学部はなぜこんなに少ないのでしょうか。

獣医の需要はそれほどないのでしょうか・

一方で、獣医になりたいという若者はそれなりにいまして、そのため、獣医学部や獣医師養成課程の学部・学科の受験では高倍率、高偏差値の難関になっています。

今回は、この「獣医学部はなぜ少ないの?」という点について、増設や新設できない背景について整理していきたいと思います。




まるっと解説!まとめ記事はこちら


獣医学部・獣医学科は少ない


冒頭でも書いたように、獣医学部、獣医学科といった、いわゆる獣医師養成課程の学部・学科を設置している大学は限られています。

一覧にするとこんな感じでして、国公立で11大学、私立が6大学のみとなっています。

【国立】
・北海道大学 獣医学部

・帯広畜産大学 畜産学部 共同獣医学課程

・岩手大学立 農学部 共同獣医学科

・東京大学 農学部 獣医学課程

・東京農工大学 農学部 共同獣医学科

・岐阜大学 応用生物科学部 共同獣医学科

・鳥取大学 農学部 共同獣医学科

・山口大学 共同獣医学部 獣医学科

・宮崎大学 農学部 獣医学科

・鹿児島大学 共同獣医学部 獣医学科

・大阪府立大学 生命環境科学域 獣医学類(2022年より大阪公立大学獣医学部となる予定)

【私立】
・酪農学園大学 獣医学群 獣医学類

・麻布大学 獣医学部 獣医学科

・北里大学 獣医学部 獣医学科

・日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科

・岡山理科大学 獣医学部 獣医学科

・日本大学 生物資源科学部 獣医学科

しかも、獣医学部は特殊な事情がありまして、多くの大学で「共同獣医学部」「共同獣医学科」といった仕組みをもっています。

これは、複数の大学で、教育施設や教員をシェアすることで、必要な教育環境を整備するといった制度です。

日本の獣医師養成教育現場は、それだけ教育資源が乏しく、単独の大学では十分な教育を提供できないということでもあります。

現在の少ない獣医師養成課程(獣医学部、獣医学科)でも、やっと維持している・・・といった印象です。

獣医学部はなぜ少ないのか、なぜ教育環境を整備できないのか。

獣医学部・獣医学科はなぜ少ない?理由を解説【背景は規制?】


結論を言うと「獣医学部・獣医学科はなぜ少ないのか?」の答えとしては「規制」があるからということになります。

大学の学部を新たに設置する場合、文科省の許可が必要です。

獣医学部・獣医学科を設置したい大学はたくさんある


獣医学部は人気の高い学部にも関わらず、学部数・定員が限られており、受験競争は激しいです。

そのため、大学側(特に私立大学)としては、獣医学部を設置できれは学生を集めることが容易になるでしょう。

日本は少子化がどんどん進行していますから、これから大学は学生をいかにして集めるか、というのは経営問題にかかわってきます。

ぶっちゃけ、たいして人気のない学部しか設置できていない地方の私立大学はこれからどんどん淘汰されていくでしょう。

獣医学部・獣医学科の新設がなぜ許可できない?


しかし、文科省が新たな獣医学部・獣医学科の設置を許可しない、というわけです。

これは医学部も同じで、ある程度の教育の質を維持し、国家資格の保有者数及びレベルをコントロールするためですね。

別記事で書いていますが、薬学部についても、かつては規制が行われ新設の学部、学科はかなり宣言されていました。


しかし、2000年代はじめに、規制緩和されると、各大学(とくに地方の私立大学)で薬学部の新設ラッシュが起きました。

これにより、薬学部の定員がぐんと増えた一方で、薬剤師養成の教育の質をどうやって維持するか、薬剤師の質の低下は起きないのか、といった心配はいまだに議論されています。

また、薬剤師の需要以上に、薬剤師国家試験合格者や薬学部卒業者が増えてくると、多額の税金を投入して高等教育を施した学生が職にあぶれてしまいかねませんよね。

これは大きな社会的損失となります。

獣医学部、獣医学科はなぜ少ない→獣医師教育と獣医師の質をいじするため


もしも、獣医学部や獣医学科の設置を容易に許可してしまうと、同様の問題がでてきてしまうことが危惧されています。

獣医学部・獣医学科の定員は獣医師の需要に見合ったものでなければなりません。

そして、質の高い教育設備や十分な教員数を確保できる大学だけが、獣医学部・獣医学科を設置するべきです。

また、獣医師の質の維持のためにも、獣医学部・獣医学科には優秀な学生のみが入学できる=競争倍率と難易度を一定以上に保つことも重要です。

実際、薬学部の新設ラッシュによって、定員割れが起こったり、受験偏差値が30台でも合格出来てしまうなど、「学生の質の低下」が問題視されている薬系大学もあります。

獣医学部・獣医学科の新設の4要件を満たせる大学がない(少ない)


実は獣医学部に関しては、こういった事を踏まえた「石破4条件(獣医学部新設4要件)」というものが平成27年に閣議決定されております。

⑭獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討

現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、 ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、
既存の大学・学部では対応困難な場合には、 近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。
(「『日本再興戦略』改訂2015」 p.121より)

つまり、今の獣医師養成課程に加えて、新たに拡充をしたいなら、ニーズはっきりさせ、需要を考慮したうえで検討しますよ、ということです。

絶対だめだというわけではないものの、獣医学部の新設をしたい大学にとっては、かなり高いハードルとなります。


獣医学部、獣医師の必要性、需要ってそもそもどうなん?


受験希望者が多く倍率が高いことから、「受験生にとっては」獣医学部・獣医学科の需要は高いように思いますが、そもそも、日本においては獣医師の需要ってどうなんでしょう。

現時点では、毎年1000人ほどの獣医師が誕生しているのが現状です。

平成30年1月に農林水産省・安全局 蓄水産安全管理課が発表した資料(「獣医事をめぐる情勢」)によりますと、獣医師資格保有者のうち9割弱が、産業動物診療や小動物診療といった、いわゆる「獣医師さん」として活躍しているとのこと。

一方で、残りの1割ほどが獣医師以外の仕事に就いているようです。

また、各大学の獣医学部・獣医学科の卒業生の進路をみてみると、就職希望者の就職率はほぼ100%となっていて、決して「獣医師余り」「獣医師供給過剰」とはなっていないようですね。

一方で、供給が需要に追い付いていないかというと、そうではなく、地域や分野ごとの偏りがあるだけで、総数としては「獣医師不足」とも言えないようです。

まー、もともと、日本の場合、世界的にみると酪農や畜産をそれほど盛んに行っている国家ではありませんし、やっているとしても特定の地域に偏在していますよね。

政府と関連する省庁(文部科学省、農林水産省)としては毎年1000人くらいの獣医師が供給できれは、ちょうどいいと思っているのかもしれません。

獣医師は特定分野では人手不足?

 
とはいえ、すこし触れましたが、特定の分野によっては獣医師の人手不足が問題になっているとか。

獣医師の国家資格を活かせる仕事として、当然「獣医師」あるいは動物の健康にかかわる仕事かと思います

獣医学部や獣医学科のような獣医師養成課程の教育を経ると、おおむね下記の5つの分野で働くことになります。

・小動物臨床獣医師

・産業動物臨床獣医師

・国家公務員獣医師

・地方公務員獣医師

・民間企業

ざっくり説明しますね。

小動物臨床獣医師


いわゆる、町の獣医師さんです。

ペットなどの愛玩動物の健康を管理するのが主な仕事です。

産業動物臨床獣医師


養豚場や養鶏場など、畜産・酪農の領域で動物の健康を守る獣医師の仕事が産業動物臨床獣医師となります。

民間の水族館や動物園といった施設で勤務している獣医師もこちらに分類されます。

国家公務員獣医師


厚生労働省や農林水産省の技術系職員(獣医系技術職員採用試験に合格した者)の枠で採用された獣医師で、検疫所等での勤務をしています。

海外から到着した動物について、検疫所等で対応し、家畜の伝染性疾病の侵入防止を主な使命としたお仕事ですね。

地方公務員獣医師


各都道府県や市町村の公務員枠で採用される獣医師です。

家畜保健所、食肉衛生研究所、地域の農業・畜産研究センターや公営水族館等、様々な場所で勤務する獣医師です。

民間企業


一部の獣医師は、製薬会社や食品会社で働いています。

あまりピンとこないかもしれませんが、例えば製薬企業場合、動物用医薬品の開発に携わる獣医師もいますし、ヒト用医薬品の開発過程における動物を用いた毒性や薬効の試験研究所にて獣医師の役割は非常に重要になります。

まー世間的にはサラリーマンでして、臨床現場の獣医師とは全く異なる業務を担っていますね。

小動物臨床獣医師は飽和気味、そのほかは不足しているのが現状


んで、それぞれの獣医師について需要と供給のバランスなんですが。

結論としては、小動物の臨床獣医師、いわゆる犬や猫、小鳥などのペットを診療してくれる獣医師は供給過剰気味と言われています。

特に都心部では、そこら中に獣医の開業医院がありますよね。

ぶっちゃけ、人気のない獣医さんはかなり経営が苦しいところもあるようです。

一方で、産業動物獣医師や、公務員獣医師は不足気味なようです。

特に、もっとも需要のある、畜産関係の獣医師の仕事は、地方での需要が高く、体力面でも衛生面でもハードなので人気が無いようです。

実際獣医を志す若者も、愛玩動物の診療を希望して獣医師を目指す人が多く、それ以外の獣医師としてのニーズを満たすことを希望する学生は少ないのが実情。

十分な数の産業動物獣医師や公務員獣医師を輩出できずにいるのかもしれません。


獣医学部・獣医学科が少ないことのメリットとデメリット


ここまで獣医学部・獣医学科が少ない現状と、なぜ少ないのか、について書いてきました。

結局いまの「獣医学部・獣医学科が少ない」という状態は、メリットもあり、デメリットもあるかなり微妙なバランスで成り立っているのが見えてきますね。

獣医学部・獣医学科が少ないことのメリットとデメリットについて少しまとめておきます。

獣医学部・獣医学科が少ないことのメリット


獣医学部・獣医学科が少ないことのメリット(すなわち、獣医学部・獣医学科がなぜ少ないか、の答えの大部分)としては、下記にようなものになります。

・獣医学部・獣医学科の定員を絞ることにより、入学する学生の質を一定の水準に維持しやすい

・大学の数を限定することで、教員や教育施設を十分に確保し、質の高い教育を提供できる

・獣医師の供給過剰、「獣医師余り」起きないため、獣医師や獣医学生にとってはありがたい

医学部や歯学部のように、獣医学部のような、高度な専門教育を行うにはそれなりに公的な資金が必要になります。

そういった資金を投じるのであれば、当然、卒業した獣医師たちにはもれなく働いてもらい社会に還元しないといけません。

ポンポン簡単に獣医学部・獣医学科を増やして、コストをかけて獣医師を増やしたもののその専門性を活かす職が飽和してしまうと意味がないわけです。

歯科医師や弁護士をみてみると、近年供給過剰で、高等な知識や技術をもっている人材が就職先にも苦労する・・・なんてことになっていますからね。

とくに、日本の場合、獣医師の需要が高い畜産業については、高齢化や安い外国産製品の輸入にともない、将来的に縮小、衰退する可能性も高いでしょうから。

むやみに獣医学部・獣医学科を増やさないことのメリットは大きいのかもしれません。

獣医学部・獣医学科が少ないことのデメリット


一方で、獣医学部・獣医学科が少ないこともデメリットがありまして。

まずは、獣医師を志す若者に対して、獣医学部・獣医学科の定員があまりに少ないということにより過剰な受験戦争が引き起こされています。

国公立大学や有名私立大学の獣医学部・獣医学科だと、ぶっちゃけ医学部と変わらない偏差値が必要だったりするんですよね。

そんなに優秀なら人間のお医者さんになってくれてもいいのに・・・と思ったりもしてしまいます。

また、先述のようjに、小動物臨床以外ではやはり人材不足でして、公務員や畜産、あるいは製薬企業等で必要な数の獣医師を確保できない状況が続いてしまうのはデメリットとなるでしょう。

特に、鳥インフルエンザや口蹄疫といった深刻な感染症が流行するような有事に対応できるだけの十分な獣医師が確保できているかというとそうではありません。


獣医学部はなぜ少ないの?新設できない理由とは!【まとめ】


以上、「獣医学部はなぜ少ないの?」という点について、その理由と背景について整理、解説してきました。

結論としては、規制があるから、というのが理由なのですが、その背景には、「獣医師の需要と供給バランス」や「獣医師の地域や、分野ごとの偏り」そして「獣医学部・獣医学科の教育(学生の質、教育の質)が絶妙に絡み合っているという現状があります。

薬学部の新設ラッシュ後にみられたような学生の質の低下や、定員割れ現象なんかは当然避けたいところですし、歯科医師や弁護士のような供給過剰が起きると、せっかく税金を投入して獣医師を教育しても無駄になってしまいますからね。

獣医師の活躍の場である、畜産業の今後の動向も不透明です。

こういった事情もあり、なかなか獣医学部・獣医学科の新設や規制緩和が難しいということが「獣医学部はなぜ少ないの?」の答えとなります。

それじゃあ今回はこれくらいにしておきます。

では。

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